期首だとか、棚卸高とか、ややこしい言葉が出てきましたので、
なじみのある言葉でいいかえると、次のとおりです。
前期末在庫額240+当期商品仕入額1,080=計1,320、
1,320-当期末在庫額720=当期に売れた商品(売上原価)600
という計算になっています。
この計算式をそのまま理解しようとすると、混乱しますので、
いったん全部忘れます。損益計算書のこともいったん置いておきます。
計算の流れを考えるにあたっては、
倉庫番の気持ちになると分かりやすいです。
社長から商品入出庫を管理する倉庫番を任されたと仮定して、
以下、お読みください。
社長から倉庫番を任されました。
「決算日になったら、仕入商品のうち、売れた分を報告するように」
という指示を受けています。
決算日である令和×2年3月31日が終わりました。
倉庫番として売れた分の計算にとりかかります。
(前期末の在庫がない場合)
■記録を確認したところ、今年に入庫された商品は全部で1,320でした。
■決算期末3月31日の在庫を確認したところ、720でした。
今年に売れた商品はいくらになるでしょうか。
商品1,320が倉庫に入ってきて、
在庫720しか残っていなかった、ということですので、
売れた商品は1,320-720=600となります。
損益計算書で表現すると、次のとおりです。
倉庫番は、売上や利益の数字を把握できませんので「××」としております。
(前期末の在庫がある場合)
■記録を確認したところ、前期末の売れ残り在庫が240ありました。
■同じく、今年に入庫された商品は全部で1,080でした。
■決算期末の在庫を確認したところ、在庫金額は720でした。
今年に売れた商品はいくらになるでしょうか。
今年、販売可能だった商品は全部で1,320です。
前期末の売れ残り商品240は、今年売ることができますし、
当期の仕入れ商品1,080も、そのまま売ることができます。
前期末在庫240+当期仕入1,080=1,320です。
前期在庫を合わせて
1,320を仕入れましたけれども、
在庫720が売れ残りですので、
売れた商品は1,320-720=600となります。
損益計算書で表現すると、次のとおりです。
倉庫番は
当期に売れた商品=前期末在庫額+当期商品仕入額-当期末在庫額
と計算して社長に報告します。
売上原価の内訳の流れ通りです。
そこから先は、社長の仕事になります。
社長は、倉庫番から「当期に売れた商品600」という報告を受けました。
同様に、営業部門から「売上高1,000」という報告を受けています。
社長はそれらの情報をまとめて、
商品を売ったことによるもうけ「売上総利益400(=1,000-600)」を計算します。
このように、商品を売ってもうけが出たかどうかを確かめるには、
「売上高」と「売れた商品にかかった仕入額(売上原価)」を比較する必要があります。
在庫分を考えずに「当期商品仕入額」と比較するのは無意味です。
参考に比較してみると、次のとおりです。
損益計算書を単価×数量で表します。
売上単価@200、仕入単価@120です。
売上総利益400=@80×5個ですので、
今年は5個売れて、その結果、1個あたり80円もうかったことが分かります。
ここで「売上高」と「当期商品仕入額」を比較してみても、
もうけは計算できません。
売れた数量5個と仕入れた数量9個が異なっているので、
金額を比較しても意味不明な数字となるからです。
売上高1,000ー当期商品仕入額1,080=▲80の損失
もうかっているはずなのに赤字というおかしな話になります。
商品を売ったことによるもうけを計算するには、
数量を合わせたうえで「売上高」と「売上原価」を比較し、
差し引き計算する必要があります。
売上高-売上原価=売上総利益(もうけ)
ですので、売上原価の計算がいいかげんだと、
もうけの計算もいいかげんなものになります。
会社の現状、実態を把握できなくなり、
最悪、経営判断を誤ることになります。
売上原価は
当期に売れた商品=前期末在庫額+当期商品仕入額-当期末在庫額
と計算しますので、これを正確に計算するには
「当期商品仕入額」と「毎期の在庫額」をきちんと集計する必要があります。
■当期商品仕入額の集計方法
仕入先に支払った現金預金の出金記録を集計すれば良いです。
正確な金額をわりと簡単に集計できます。
■毎期の在庫額
倉庫内の商品の数を数え、商品ごとに単価×数量を計算、集計する必要があります。
商品を数えること=「棚卸(たなおろし)」といいます。
売上原価内訳の中の「商品棚卸高」という言葉の意味はこれです。
「期首商品棚卸高」=期首(前期末)に数えた商品の金額
「期末商品棚卸高」=期末(当期末)に数えた商品の金額
「数えるだけなら簡単そう」
と思われるかもしれませんけれども、
在庫額を正確に計算、集計するのは大変です。
会社規模が大きくなるほど、難しくなっていきます。
・商品の種類が多いと、数えるのに時間と手間がかかる
・売れる商品と売りモノにならない商品が混じっている
(売りモノにならないものは除く必要がある)
・期末在庫額=単価×数量で計算されるので、
商品ごとの単価情報も日々、整理しておく必要がある
・従業員が棚卸を面倒臭がってやってくれない
棚卸をできるだけスムーズに行うには、いわゆる
5S(「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」)が重要です。
・きれいに並んでいて数えやすい
・どこにどの商品が保管されているのか、すぐに分かる
・売りモノにならない商品はすぐに処分される
・従業員がルールどおりに棚卸をする
日ごろから、棚卸しやすい環境を整えておく必要があります。
上記の例で説明した売上原価は、
当期に売れた商品=前期末在庫額+当期商品仕入額-当期末在庫額
という、年に1回の計算方法でした。
もうけの計算は毎月行うこともできます。
月の売上原価を計算する方法は、次のとおりです。
当月に売れた商品=前月末在庫額+当月商品仕入額-当月末在庫額
「期」が「月」に変わっただけです。
毎月の売上原価を計算することで
毎月の利益実績も計算、集計できるようになります。
月次創業計画書(事業計画書)と実績を比較して、
経営判断に役立てることができます。
年に1回だけ利益を計算するよりも、
毎月計算した方が良いです。
ただし、
そのためには毎月棚卸をする必要があります。
「毎月きっちり棚卸するのは大変なんだけど…」
という場合はざっくりでも良いので実施します。
・ほとんど動いていない在庫は棚卸を省略する
・金額の大きい在庫だけ数える
・在庫現物は一切数えず、売上×平均原価率で売上原価を計算する
・3ヶ月や半年に1回だけ棚卸をする
棚卸を全くやらないよりも断然マシです。
利益実績をある程度把握できるからです。
毎月の実績集計は正確性よりもスピード重視でいきます。
迅速な経営判断に役立てることが目的ですので、
赤字か黒字か、金額がだいたいどれくらいか分かれば十分です。
精度80%で問題ありません。
「売上原価の内訳」の説明は以上になります。
利益計算には売上原価の計算が必要で、
売上原価の計算には棚卸が重要です。
経営判断を正しく行うためのスタートが「棚卸」です。
従業員にこの点を理解してもらえると、
棚卸の実施がスムーズにいくかもしれません。
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